最終更新 2003/10/12

 ここでは、横溝正史・金田一耕助に関する書籍を、思いつくがままに取り上げていきます。
 読書のご参考にどうぞ。

 なお、現在売っている本でも、書店では手に入れにくいものが多くあります。
 そのため、在庫の点数・到着日数などを調べて、いちばん横溝関係の書籍が手に入れやすかった、オンライン書店bk1へのリンクを張っておきます。インターネットで買われる方は、リンクをクリックしてお入り下さい。
 ちなみに、当サイトはbk1と提携していますが(ブリーダーシステム)、理由は上の通りです。

●「横溝正史に捧ぐ新世紀からの手紙」角川書店 2002/05/25 1900円+税 ハードカバー

 最新の、横溝正史と金田一耕助に関するガイドブックです。
 まず最初にお断わりしておくと、この本では、「本陣殺人事件」「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」の犯人を、明かしてしまっています。ですので、まずこの三冊は、先に読んでおいたほうがいいでしょう。
 その点を除くと、この本はバランスの取れた、しかも今の読者の興味も引くような、ガイドブックになっています。まず、岡山県を舞台にしたホラーで活躍中の岡山県人・岩井志麻子による、岡山紀行。横溝正史と作品ゆかりの地が、的確に案内されています。
(この中に、「本陣」の犯人が出てきます)
 次には、本格の隆盛に力を尽くした二人の作家、森村誠一と綾辻行人による横溝正史に関する対談。現在の本格ミステリ第一人者(というと綾辻さんが過去の作家みたいですが、もちろん、そういう意味ではありません)、北村薫と有栖川有栖が横溝正史作品について熱く語る対談。インタビューは、本格も手がける作家として恩田陸、横溝正史賞大賞の受賞者からは小川勝己、漫画界からCLAMP、映像面からは岩井俊二、横溝正史ブームを知らない世代として乙一、と、豪華なメンバーが語っています。
 更に、法医学の第一人者・上野正彦による「犬神家の一族」の考察(犯人を明かしています)、東京の町歩きの達人・泉麻人は、横溝正史の住んでいた成城の辺りを散策しながら作品と引き比べて考察しています。そして、息子さんである横溝亮一が、父親・正史の姿について、率直に語っています。
 個人的には、今まであまり語られなかった成城と横溝作品との関係を描き出した、泉麻人の文章が、非常に面白く感じられました。
 その間に、研究家の浜田知明が主に資料提供、評論家の山前譲が主に執筆した、コラムや知識が入ります。まず、金田一耕助の正確な事件年譜、日本の名探偵年譜、金田一耕助シリーズの犯人像、磯川警部はじめ協力者たちの紹介、名言集などなど。たいへん正確なものだと思います。私も読んでみて、いくつか、自分の記憶まちがいに気づきましたので。
 作品は、金田一耕助の小説に書かれた最初の事件「幽霊座」(現在角川では絶版)が再録され、また、金田一耕助の登場する短篇では最高とも言われる「百日紅の下にて」は、ささやななえこの漫画で(インタビュー付き)再録されています。
 その他、各界著名人へのインタビュー、横溝正史自身のエッセイ(「悪魔の手毬唄」の犯人が書いてあります)、映画や、角川文庫初版カバーなどをグラビアで紹介――と、いろいろな角度から、横溝正史世界を紹介している、最初にも書きましたが、バランスの取れた本です。
 その上で、やはり何冊か、横溝作品を読んでみた上で、あるいは映画を見てみてから読むと、より楽しめ、より横溝世界にひきこまれる本、と言えるのではないでしょうか。
(なお、知り合いもいたりして、煩雑になるので、すべて敬称を略しましたことをご理解下さい)

●「金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲」角川書店 2002/05/25 1900円+税 ハードカバー

 横溝正史の生誕百年を記念して出版された、アンソロジー。著者は、赤川次郎、有栖川有栖、小川勝己、北森鴻、京極夏彦、栗本薫、柴田よしき、菅浩江、服部まゆみ(五十音順)。それぞれ、金田一耕助に、あるいは横溝正史にまつわる短篇を書いています。
 残念ながら、というべきか、私も一応、ジュニア・ミステリとはいえミステリ作家でもありますので、作品について書評を書くことは控えざるを得ません。
 ただ、いくつかの作品は、記念出版にふさわしいものであったと思います。

●「横溝正史 自伝的随筆集」角川書店 2002/05/25 2500円+税 ハードカバー

 新保博久・編による、随筆集。「第一章 横溝正史自伝」では、横溝正史の幼少からの思い出が、余すところなく綴られ、「第二章 それからの事ども」では編集者時代、また作品についての話が、「第三章 日本二大探偵作家 乱歩と正史」には、江戸川乱歩の書簡や乱歩の思い出が収められています。巻末は、中島河太郎の作った年譜を新保博久が補っています。
 私のように、晩年の横溝正史しか知らない人間からすると、その感情の起伏の激しさなどは、驚くほどです。また、創作の秘密なども知ることができます。
 現在(2002/07/20)、横溝正史のエッセイは全て絶版となっていますので、この本だけからすると、横溝正史はずいぶん「暗い」人のように見えるかもしれませんが、実際には、軽妙でモダンな部分を持った人であることは、「真説 金田一耕助」「横溝正史読本」などから分かります(角川文庫・いずれも絶版)。その精神のバランスを知る上で、これらの本もまた、復刊して欲しいと強く願うものです。
 横溝正史の、作家として優れた点は、このバランス感覚にあったように思います。本書に収められた、「暗い」面と、明るい面とがうまく配合されていたからこそ、あれだけの大ヒットを呼んだのではないでしょうか。

●山田誠二「18人の金田一耕助」光栄 1998/03/06 2000円+税  歴代の、映像化された金田一耕助作品に関する研究書です。この本には、映画・テレビで金田一耕助を演じた18人の役者と、その作品が網羅されています。
 この本の後で、上川隆也が19人目の金田一耕助をテレビ東京系「女と愛とミステリー 迷路荘の惨劇」で演じましたが、なぜか、「20代目」と宣伝されました。これは、事情に詳しい人の話では、「20」という数字にこだわったテレビ局が、「金田一耕助の冒険」に初代・金田一耕助という役でカメオ出演した三船敏郎を省き、舞台で金田一耕助を演じた2人を足して、数合わせをしたという話です。真偽のほどはともかく、あまり気持ちのいい話には、私には感じられません。
 それはさておき、この本ですが、「金田一耕助の基礎知識」から、金田一映画の歩み、各作品のデータ、あるいは片岡千恵蔵や片岡鶴太郎の金田一映像は、原作とどう違うかを(ネタバレですが)比較するなど、内容の濃い本になっています。
 読んでいるうちに、評判の悪い片岡鶴太郎版も、つい見たくなってしまう辺り、著者の面目躍如と言ったところでしょう。
 漏れ聞くところによると、この本を出すに当たっては、版権その他の問題で、大変なご苦労があったと言います。この本を手に、金田一映像の世界を探索してみては、あるいは想像してみてはいかがでしょうか。
 なお、この本は評論集ではなく、あくまで研究に徹しています。そこに私は、好感を抱いております。

●長山靖生・編「日米架空戦記集成」中公文庫 2003/07/25 667円+税  第二次世界大戦中までに発表された、架空戦記の短編を11本、集めたものです。海野十三、三橋一夫、大阪圭吉など、魅力的な名前が並びますが、その中に、横溝正史が昭和17年に発表した「現代小説 慰問文」という短編が載っています。
 もちろん、解説にもあるように、横溝正史は国策にのっとった小説はなかなか執筆せず、そのために戦時中は活躍できず、かろうじて捕物帳で糊口をしのいでいたわけですが、この作品も、慰問袋という戦時中ならではの物を題材にしながら、決して士気を鼓舞するとか、日本の勝利を夢見るといった内容ではなく、ちょっとひねりのある、むしろ戦争にあからさまに反対はしないものの(それは、できませんから)、平和とも言える内容になっています。
 ただ、この作品が今まで(たぶん)全集などに収録されてこなかったのは、ミステリ味が薄いこともありますが、一応、形の上では国策に則った小説を発掘することを、横溝正史がよしとしなかったのではないか、と思うのは、考えすぎでしょうか。
 そう思うと、窮屈な弾圧の中で、どことなく横溝らしい人情のかいま見える作品をも発表していたのだ、という、貴重な証拠となるのが本書です。



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